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広島地方裁判所 昭和55年(ワ)215号 判決 1983年9月29日

原告

市川正士

ほか一名

被告

竹重三代子

ほか三名

主文

一  被告らは各自原告市川正士に対し金八三万七九九二円、原告市川文子に対し金一〇万七三一八円及びこれらに対する昭和五三年一一月八日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。但し、被告らにおいて、原告正士のために金三〇万円、原告文子のために金五万円の担保を供したときは右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告市川正士に対して金五二〇万円、原告市川文子に対して金四八〇万円及びこれらに対する昭和五三年一一月八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担となる。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは訴外亡市川良子の両親で、他に良子の相続人はいない。

2  事故の発生

(一) 日時 昭和五三年一一月七日午後五時三五分ころ

(二) 場所 広島県東広島市八本松町大字原記念橋交差点北方約一五〇メートル先県道馬木・八本松緑上

(三) 態様 歩道上を自転車に乗つて進行していた良子が、転倒して車道に倒れ込んだところ、良子の後方から同一方向に進行してきていた被告竹重三代子運転の軽四輪貨物自動車(以下「三代子車」という。)が良子を轢過し、更に、三代子車の後方を同一方向に進行してきた被告森本千晶運転の普通乗用自動車(以下「千晶車」という。)も良子を轢過し、良子は、同月九日午前四時三〇分頭蓋骨骨折、脳挫滅により死亡した。

3  被告らの責任

(一) 被告三代子

良子は、自転車で進行中転倒し、自転車は、そこで良子の体から離れ、良子は約八メートルを一・五秒ないし二秒で転がつてコンクリート製(但し、両側のみコンクリート製で、中央には土砂が入れられ、芝生が植えられている)の分離帯を越えて車道に転がり出た。被告三代子は、良子が歩道上で転倒したのをその約一八メートル手前で認め、良子が車道上に転がり出るのをその約一〇メートル手前で認めており、したがつて、被告三代子が、良子の歩道上での転倒を認めると同時にハンドルを切るか急制動すれば本件事故を避けることができたのに、被告三代子には右措置をとらなかつた過失がある。仮に、被告三代子の主張どおり、良子が車道上に転がり出るのをその手前約四・八メートルで発見したものであるとしても、良子が歩道上で転倒してから車道に転がり出るまでには一・五秒ないし二秒を要しており、被告三代子が、前方を注視して運転し、良子の動静を把握しておれば、より早く良子の異変に気付きそれに対応した措置をとることにより事故を避けることが可能であつたもので、被告三代子には前方注視義務違反の過失がある。更に仮に、良子と三代子車との事故が防ぎ得ないものであつたとしても、良子は、自車の直前に倒れ込んできており、衝突の衝撃もあつた筈であるから、直ちに自車を停止して良子の負傷の有無を確認し、負傷していればこれを救護すべき義務があり、右義務が履行されていれば千晶車による良子の轢過はなかつたのであるから、被告三代子の右救護義務違反と良子の死亡との間には因果関係が存する。

(二) 被告千晶

被告千晶は、三代子車の三五ないし四〇メートル後方を追尾しており、良子が三代子車によつて轢過されて車道上に横たわつているのをその約一七メートル手前で認めながらそれを人と認識しないまま轢過しており、右事故は被告千晶の前方注視義務違反に基づくもので、右二度目の轢過がなければ良子の死亡は避けることができたものであるから、被告千晶の右過失と良子の死亡との間には因果関係が存する。

(三) 被告輝彦及び被告昭治

被告輝彦は三代子車を、被告昭治は千晶車をそれぞれ所有し、これを自己のために運行の用に供していた。

4  損害

(一) 治療費関係(原告正士が負担) 金五〇万〇八二〇円

(1) 治療費 金四一万〇八二〇円

死亡するまでの八本松病院での入院治療費である。

(2) 入院雑費 金二万円

タオル、氷、氷嚢等の費用

(3) 入院中の附添費 金二万円

二日間家族ら四人の付き添いを要したので一人一日金二五〇〇円として。

(4) 交通費(タクシー代) 金五万円

事故直後家族が事故現場、病院にタクシーで急行したり必要品を揃えるために走つた費用

(二) 良子の逸失利益 金一七七五万九〇三二円

原告らは、将来良子を大学若しくは短大を卒業させて小学校の教員にしたいと希望していたところ、良子が短大卒で就職し満六七歳まで稼動するとすれば、年収金一九一万九一九〇円、生活費控除を三五パーセントとしてライプニツツ方式により中間利息を控除して逸失利益を求めると金一七七五万九〇三二円になる。

原告正士、同文子は、良子の両親で、その相税人のすべてであるから、右逸失利益の二分の一に当たる金八八七万九五一六円をそれぞれ相続した。

(三) 原告らの慰謝料 各金五〇〇万円合計金一〇〇〇万円

原告らは長女良子の死亡により深い精神的苦痛を受け、その慰謝料としては各金五〇〇万円が相当である。

(四) 原告正士の負担した葬儀費用 金五〇万円

(五) 損害の填補

原告正士、同文子は、本件事故につき自賠責保険から金一六二九万三七二〇円を得ているので、これを控除する(原告両名でそれぞれ保険金の二分の一を得た)。

(六) 弁護士費用 各金三五万円合計金七〇万円

(七) 原告らの請求額

原告正士の損害額は金七〇八万三四七六円となり、そのうち、金五二〇万円

原告文子の損害額は金六〇八万二六五六円となり、そのうち金四八〇万円

をそれぞれ請求する。

5  よつて被告らに対し各自、原告正士は金五二〇万円、原告文子は金四八〇万円及びこれらの金員に対する昭和五三年一一月八日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による各遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1記載の事実は認める。

2  同2記載の事実のうち、三代子車が良子を轢過したとの点は否認し、その余の事実は認める。

3  同3記載の事実のうち、(三)は認めるが、その余の事実は、否認する。

4  同4記載の事実のうち(五)を認め、その余の事実は否認する。

三  抗弁

1(一)  被告三代子及び被告輝彦

被告三代子は、時速四〇ないし五〇キロメートルで進行中、左前方約一八・八メートルに歩道上を自転車で進行している良子を認めたが、正常に進行していたため格別注意を払うこともなく進行していたところ、約四・八メートルに接近したところで、良子が突然車道に倒れ込んでくるのを認めたが、自車と良子又は自転車とが接触した様子もなかつたため、何事もなかつたものと思いそのまま事故現場を離れたもので、被告三代子には本件事故につき何の責任もない。仮に、三代子車と良子の自転車とが接触していたとしても、被告三代子としては、それまで正常に進行していた自転車が至近距離に至つて突然転倒し、かつ、良子が幅一メートルの分離帯を越えて自車に接触してくるであろうことはおよそ予想できないことで、被告三代子に過失はなく被害者良子の一方的過失であり、また、三代子車には構造上の欠陥、機能の障害はなかつた。

(二)  被告千晶及び被告昭治

被告千晶は、三代子車の後方を時速約四〇キロメートルで進行中、右前方約三一メートルに対向車が前照灯を点燈して停止していたので不審には思つたがそのまま進行していたところ、左前方一八メートルに黒い物体を発見したがそれが人であることに気付かず、また、反対車線には対向車が停止していたためハンドル操作で避けることもできなかつた。ところで、本件事故の発生した一一月七日午後五時三五分ころは、日沈後漸く暗くなり始めたころで、運転者にとり最も見通しの悪いとされる時間帯であること、本件事故現場付近には街路灯等の夜間照明がないこと、良子が倒れていた地点の反対側には対向車が前照灯を点灯して停止しており、千晶車は前照灯を下向きにしていたこと、良子は黒つぽい服装をしたうえ車道上に身動きせず転倒していたこと、からすれば、被告千晶にとり黒い物体が人であることを判別することは極めて困難であつたというべきであり、したがつて、被告千晶に過失はない。そして、千晶車には構造上の欠陥、機能の障害はなかつた。

2  過失相殺

良子には車道上に進入したうえ転倒していた過失があるので過失相殺を主張する。良子は、自転車に乗り、下り坂であつたこと等から舗装された歩道上を相当速い速度で下る際、分離帯の縁石ブロツクに激突して前輪タイヤをパンクさせ、かつ、幅一メートルの分離帯を越えて車道内に飛び出したものである。

3  損害填補

原告らは、自賠責保険金一六二九万三七二〇円のほか、被告三代子及び同輝彦並びに被告千晶及び同昭治から各金一五万円(合計金三〇万円)の支払いを受けている。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2は争い、同3記載の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  身分関係

請求原因1記載の事実は当事者間に争いがない。

二  事故の発生

いずれも成立に争いのない甲第一号証の一ないし六、第二ないし第四号証の各一、二、第五号証の一ないし五、第六号証の一ないし六、第七号証の一ないし七、第八号証の一ないし五、第九号証の一ないし九、証人今井伸、同日戸真由美、同松原義孝、同中村誠司の各証言、被告竹重三代子、同森本千晶各本人尋問の結果(但し、被告三代子本人尋問の結果については後記措信しない部分を除く。)によると次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、北東の八本松駅方面から南西の八本松町吉川方面に通ずる県道馬木・八本松線上にあり、車道幅員七・九メートル、アスフアルト舗装されており、西側には幅一メートルの路側帯が白ペイントで表示され、東側には幅一メートル高さ〇・二メートルの分離帯があつて、その外側に幅三・一メートルの歩道(自転車歩道通行指定)があり、速度は時速四〇キロメートルに規制されている。道路は、三代子車らの進行方向である八本松町吉川方面に向かい緩やかに左にカーブし、かつ、勾配約二度の下り坂となつている。本件事故当時、路面は乾燥しており、日没直後の薄暗くなりかけたころで、付近に街路灯はなかつたが、まだ明りが残つていたし、視界を妨げる障害物はなく見通しは良かつた。なお、本件事故時は退勤時間帯で上下線とも交通量は多かつた。

2  良子は、本件事故当時八本松中学校一年生に在学中で、学校のクラブ活動を終え友人の日戸真由美と共に自転車で本件事故現場の歩道上を北から南に向かい帰宅途中、突然前輪がパンクしたため自転車を制御することができなくなり、右側ペダルを分離帯の縁石ブロツクに衝突させたりしながら数メートル分離帯に沿つて進行した後、自転車とともに分離帯上に転倒し、良子は車道上に放り出された。

3  被告三代子は、八本松町飯田の自宅から同町原の体育館へ子供を送るため三代子車を運転して時速約四〇キロメートルで本件事故現場にさしかかり、良子が自転車で同一方向に進行しているのを左斜め前方に認めたが、正常に進行していたためさほど気に留めることなく進行していたところ、約五メートルの至近距離に至つて良子が車道に倒れかかるのを見、また、衝撃も受けたため、良子が自車に衝突したことが判つたが、停止することなくそのまま約五〇〇メートル進行し、そこで気になつてUターンして本件事故現場に向つたが、事故現場で停止することなく自宅に戻り、そこから警察署に出頭した。

4  良子は、第一事故後、頭部を分離帯寄りに、足を車道中央線方向に向け、センターラインに直角よりやや北方に足を向けて倒れていた。

5  被告千晶は、千晶車を運転し、先行の三代子車に追従して時速約四〇キロメートルで進行中、本件事故現場手前の左カーブにさしかかる直前まで見えていた三代子車がカーブに入つて見えなくなつた後、右斜め前方約三一・五メートルに対向車が停止しているのに気付き「近くには売店もないのに」と不審に思つたがそのまま進行し、自車前方約一七メートルに黒い物体を発見したがほとんどそのままの速度で進行してこれを轢過した。

6  被告千晶は、本件事故当時前照灯を下向きにして点灯していたが、下向き前照灯によつても約三二メートル前方の濃紺の製服を着用した警察官の佇立を確認することが可能である。

7  松原義孝は、対向車線を四輪車で進行していたが、良子が車道に倒れ込むのを見てから停止するまでに一五メートル走行し、中村誠司は同じく普通乗用自動車で進行していたが、衝突を見てから停止するまでに一七・三メートルを要しており、被告千晶は良子を轢過した後二四・九メートル進行して停止している。

8  対向車線を走行していた松原義孝と中村誠司とは、三代子車と衝突した良子を救助しようとしたが、そのいとまもなく第二事故が発生した。第二事故の発生は、中村が第一事故を目撃して車を止め、ドアを開けて降車した直後であつた。

9  本件事故時は薄暮の状態で、一般走行車は前照灯をつけている車もない車もあつた。

三  被告らの責任

1  被告三代子

原告は、第一に、被告三代子が、良子の自転車がふらつくのをその前方約一八メートルに認め、良子が車道上に転がり出るのをその約一〇メートル手前で認識していたことを前提としてその過失を主張しているが、右前提事実が認め難いこと前認定のとおりである。第二に、前方注視義務違反の主張についてであるが、仮に原告主張のとおり良子の自転車がふらつき始めてから車道に転倒するまで二秒を要したとすると、時速四〇キロメートルで進行していた三代子車は、衝突地点の手前約二二メートルの位置で良子がふらつき始めるのを認むべきこととなる。しかしながら、これは、被告三代子が良子の自転車を注視していて始めて可能であるところ、本件において良子は中学生で、被告三代子が見た時は普通に進行しており、道路も十分整備されており、車道と歩道との間には幅一メートルの分離帯もあつたのであるから、このような状況下においては、被告三代子に、前方を進行している自転車に異常が生ずれば直ちにこれを認識し、かつ、それに対応する措置をとることが可能な程度の動静注視義務を負わせることは運転車に酷となり採用できないと考える。したがつて、被告三代子が、良子がふらふらし始めたのを直ちに認識しなかつたことを同被告の過失とすることはできない。次に、救護義務違反の過失であるが、被告三代子は、良子が自車直前で車道に倒れ込んでくるのを認め、また、自車に物が衝突した衝撃も感じており、当時交通量は多く、人が負傷して車道に倒れておれば、後続車による轢過をも予想できる事態であつたから、運転者とすれば直ちに停止して受傷の有無を確認し、負傷していたならば後続車による二重事故防止措置をとるべき義務があつたということができる。そして、三代子と後続の千晶車との車間距離は判然としないけれども、カーブに入るまでは前車が見えており、さればと云つて、さほど近くもなく、第一事故発生と第二事故発生との間に、対向車の運転手が第一事故を見て停止し、ドアを開けて降りる程度の時間はあつたのであるから、被告三代子が、良子の倒れ込みを見て直ちに急制動措置をとり停止すれば、被告三代子自身が降車のうえ具体的な第二事故措置をとらなくとも(この点については、対向車が事故を目撃してから停止までに一五メートル以上、被告千晶が轢過してから停止するまでに二〇メートル以上走行していることからすれば、被告三代子が良子の倒れ込みを見て直ちに急制動したとしても衝突地点から一〇メートル以上は進行しなければ停止しなかつたと考えられるところ、衝突地点のすぐ近くに停車していた対向車線の二人が救助を思いながらなす術もなく第二事故が発生したことからして、被告三代子が停止していたとしても何らかの有効な第二事故防止措置を構じ得たかは疑問である)、後続する被告千晶は、前車が急制動して停止したことを認識しうるであろうし、そうすれば自らも減速し、かつ、前方に特に注意して進行することが予想され、そうなれば、倒れている良子を手前で発見して停止するなり、ハンドル操作で避けるなどして良子を轢過するに至らなかつた蓋然性は高く、したがつて、被告三代子の救護義務違反と第二事故の発生との間には相当因果関係があると認めることができる。なお、被告三代子は、良子は自車に衝突していないと主張しているが、前掲甲第二号証の二、第五号証の四、第七号証の三ないし七及び被告三代子本人尋問の結果によれば、三代子車の左側後部の赤色塗料で書いた電話番号付近に擦過痕があるところ、良子が被つていたヘルメツト右前部にも赤色塗料が付着していたこと、被告三代子は、西条警察署が行つた実況見分の際「衝突した感じを受けた」と述べていること、が認められ、これらの事実に加え、被告三代子は、一旦はそのまま走り去つたものの約五〇〇メートル先から事故現場に引き返していることから考えても、前認定のとおり、良子は三代子車に衝突したものと認めるのが相当である。そして、仮に、被告三代子が衝撃を感じなかつたとしても、良子が自車直前で倒れ込んで来たことは認識しているのであるから、自動車運転者としては、直ちに停止して被害の有無を確認すべき義務があるということができる。

以上のとおり、本件第二事故は、被告三代子の救護義務違反と後述の被告千晶の前方注視義務違反との競合によつて生じたもので、かつ、良子の死亡原因が第一事故と第二事故のいずれに起因するものか明らかでないので、被告三代子は、良子の死亡により原告らが被つた損害を賠償しなければならない。

2  被告千晶

被告千晶の前照灯の照射範囲、本件事故現場は見通しがよいこと、良子は車道にほぼ直角に横たわつていたこと、からすれば、被告千晶は、前方を注視していさえすれば、対向車が停止していることに気付いた時点で、少なくとも道路上の異物を発見できたものと認められ、その場合には、何もないところで対向車が停止していることでもあるから、対象物を確認すべく減速徐行すべき注意義務があるものというべきである。しかるに、被告千晶は、対向車が停止しているのに気をとられて前方を十分注視しないで進行し、また、異物をその手前一八メートルで認めた後も何らの措置もとることなく、ほぼそのままの速度と方向で進行して良子を轢過したもので、被告千晶は、良子を轢過したことに過失があるというべきである。

なお、本件においては、全証拠によるも被告千晶が良子に与えた原因の限定はできないから、被告千晶は、良子の死亡により原告らが被つた損害を賠償しなければならない。

3  被告輝彦及び被告昭治

被告三代子の救護義務違反による第二事故の発生も三代子車の運行によつて発生したものということができ、したがつて、被告三代子は自動車の運行に関し過失があつたこととなるし、被告千晶が過失責任を負うことは前述のとおりであるので、被告輝彦及び被告昭治は、いずれも自賠法三条の責任を免れることはできない。

四  損害

1  治療費関係 金四四万三八二〇円

原告市川正士本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり治療関係費用を要したことを認めることができる。

(一)  治療費 金四一万〇八二〇円

本件事故直後から同月九日死亡するまでの八本松病院での入院治療費である。

(二)  入院雑費 金三〇〇〇円

一日金一〇〇〇円として三日分

(三)  付添費 金一万五〇〇〇円

三日間常時二人の付き添いを要したので、一日一人金二五〇〇円として。

(四)  交通費 金一万五〇〇〇円

家族等の交通費として入院一日につき金五〇〇〇円として三日分。

2  良子の逸失利益

原告市川正士本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、良子は昭和四〇年八月五日生れ(本件事故当時一三歳三月)の健康な女子であることが認められるので、六七歳まで稼働可能、生活費控除四〇パーセントとして中間利息を控除(ライプニツツ係数一四・二三六)して逸失利益を算出すると金一三九二万六二二四円であり、被告正士、同文子は、良子の両親であり、他に良子の相続人はないので、右逸失利益は、原告両名が各二分の一の一宛金六九六万三一一二円づつ相続することとなる。

3  原告らの慰謝料

原告正士、同文子にそれぞれ金五〇〇万円とするのが相当である。

4  原告正士の負担した葬儀費用

原告正士本人尋問の結果を参考とすれば、原告らが負担すべき良子の葬儀費は、金五〇万円が相当である。

5  過失相殺

以上1ないし4により原告らが被つた損害総額は原告正士につき金一二九〇万六九三二円、原告文子につき金一一九六万三一一二円となるところ、良子には後に述べるとおりの過失があるので、原告らはその割合に応じた額については自らこれを負担しなければならない。

良子が本件事故当時危険な運転をしていたことを認めるに足る証拠はなく、証人日戸真由美の証言によつても自転車に普通に乗つての帰宅途中であつたと認められるが、前掲甲第一号証の一ないし六、第二号証の一、二によれば、良子はほぼ分離帯に沿つて進行しており、もう少し左側を進行していれば転倒しても幅一メートルの分離帯を越えて車道に出てしまうことはなかつたものと考えられ、また、前輪がパンクしたとしても、前掲甲第一号証の一によれば、自転車の制動装置に異常はなかつたことが認められるのであるから、これを利用して停止するとか、車道の反対側に倒れるとかの措置も不可能ではなかつたと考えられる。そこで、被告らの過失態様等諸般の事情を考慮し、過失相殺として原告らの損害の三割を減ずるのが相当と考える。そうすると、原告正士が請求しうべき金額は、金九〇三万四八五二円、原告文子のそれは、金八三七万四一七八円となる。

6  損害の填補

原告らが、本件事故につき、自賠責保険から金一六二九万三七二〇円を、被告らから合計金三〇万円を受領していることは当事者間に争いがないので、原告らは各金八二九万六八六〇円の損害の填補を受けていることとなる。

7  以上によれば、原告らが本訴で被告らに請求しうべき損害額は、原告正士につき金七三万七九九二円、原告文子につき金七万七三一八円となる。

8  弁護士費用

原告正士につき金一〇万円、原告文子につき金三万円を相当と認める。

五  結論

以上の事実によれば、被告らは各自、原告正士に対し金八三万七九九二円、原告文子に対し金一〇万円七三一八円及びこれらの金員に対する本件不法行為の日の後である昭和五三年一一月八日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行及びその免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤誠)

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